羊の話
羊ってどんな動物
羊と山羊は似て非なるもの。
羊と山羊は生態的には最も近い動物ですが、行動や性格は異なります。
以前羊と山羊を一緒に飼育した経験からお話しすれば羊と山羊が混在した群れの中で、ある羊を捕まえようとして追いかけると最初は両者とも走り回って逃げますが、山羊の場合追われている対象が自分で無いとわかると、われ関せずと平然と草を食べ始めるやつがいたりしますが、羊は羊群という群れの字のごとく一群となって逃げ回ります。
また牧柵の扉を留め金を引っ掛けるような仕組みで、閉じておくと、何回か出入りするうちに山羊の場合観察、学習をして、角で留め金を外して逃げ出します。山羊は単独性が有り、羊は群れる習性がより強いと感じます。
面白いのは喧嘩の仕方の違いです。山羊も羊も雄は集団でいると頭をぶつけ合って戦うことがあります。羊の場合双方が後ずさりして一定の距離を置いたら立ち止まりせーので互いに突進して頭突きをして鈍い音を立てます。
山羊はといえばその場に踏ん張り、前脚、上半身を浮かせ横向けに互いに頭をぶつけます。どちらも頭骨が硬いのは間違いないと思いますが、山羊と羊ではルールの違う異種格闘技の戦いとなり、お互い喧嘩になりません。一度山羊と羊、の種雄同士の喧嘩を見ましたがやはりおたがい戸惑い勝負になりませんでした。。
決定的な違いは死に際です。私は昔、山羊と羊の血液から医薬品の原料を作る仕事の現場で山羊と羊の血液採取をして、屠畜した経験があります。両者の臨場に立ち会うと山羊は往生際が悪いといいますか抵抗してかなり激しく暴れるのに対し、羊はあきらめてしまっているのか運命に従順であろうとするのか大人し過ぎて、断末魔に一言ベーと鳴き、とても申し訳なく感じてしまいます。屠畜場へ搬入するときも隣で豚が神経質に金切り声を上げているのに、羊は逆らわずに通路を自ら進んでいくのです。これは古来西欧の宗教において羊が生贄として神に奉げられ、神聖視された理由ではないかとおもうのです。
このような両者の違いから聖書のなかでは羊が義しき(ただしき)ものに対して、山羊は邪悪なものとされるような扱いを受ける表現があるのかもしれません。山羊には少し可愛そうな気がしますが、羊が従順なものとして、また衣食住を賄う有益な存在として、大切に扱われたのかもしれませんね。
■解体図ー肉編■
茶路めん羊牧場では羊肉の各部位を単品あるいは幾つかの部位を合わせて商品ををご用意しています。ロースやフィレが一番美味しいというわけではなく、部位ごとに特徴を生かして調理することで美味しく召し上がっていただけます。商品案内のページからご注文下さいませ。またレシピのページも是非ご参考になさってください。
1、ネック(首)ー首は長時間の煮込みに耐えることができるので、カレーシチューに向いています。適度に脂肪も入っているので、薄切りでしゃぶしゃぶ焼肉にも使えます。骨付きのまま使うと煮こんでいる間に骨からも出汁が出て、羊の風味が増します。
■商品としては…シュウパウロウ・骨付きカレーシチュー・カレーシチュー・ミンチ・焼肉・しゃぶしゃぶなど
2、ショルダー(肩)ー肩は赤身のブロックなので塊りのままロースト、厚切りでカツやステーキ、薄切りで焼肉やしゃぶしゃぶなどに使えます。
■商品としては…肩ブロック・焼肉用スライス・串焼き・前脚丸ごと1本・しゃぶしゃぶ
3、ラックーラックは肋骨13本が連なった塊りで、肩ロースからリブロースとバラの部位になります。塊りのままローストすることもできます。上半分のラムチャップと、バラの下半分のスペアリブに分けて、1本づつにすれば骨付きステーキになります。
■商品としては…骨付きステーキセット・ラムラック・ラムラックトリミング済み
4、ロインーロースフィレの部分です。骨付きのまま輪切りにすればTボーンステーキになります。背骨を外すと、ロースフィレに分かれます。筋が無く柔らかい部分なので厚切りのステーキが楽しめます。表面にきちんと火を入れればタタキにできます。
■商品としては…骨付きステーキセット・骨付きロイン・ロイン骨抜き
5、モモーモモは厚みもある赤身肉なので、ステーキやローストに向いています。少し大き目のオーブンがあれば後足の丸ごとローストもできます。アウトドア派には野外でじっくり炭火焼もおすすめです。薄切りで焼肉やしゃぶしゃぶ、厚切りでステーキやカツ、角切りで串や唐揚げなど使い勝手は豊富です。
■商品としては…モモブロック・焼肉用スライス・串焼き・後脚丸ごと1本・しゃぶしゃぶ
6、ムネーバラよりは脂肪が少な目なので、串、焼肉、カレーシチューなどに向いています。
■商品としては…焼肉用スライス・串焼き・カレーシチュー・バラ骨抜きブロック・ミンチ・しゃぶしゃぶ
7、フランク(脇腹)ー胸よりは薄い部分ですが、焼肉、挽肉などになります。巻物にして煮込みにすることもできます。
■商品としては…焼肉用スライス・串焼き・バラ骨抜きブロック・ミンチ・しゃぶしゃぶ
8、スネー骨付きのまま煮こむと出汁がでて、美味しいポトフやシチューができます。モンゴルの塩茹で料理(シュウパウロウ)はお奨めです。骨をはずして、カレーシチュや挽肉にもなります。
■商品としては…シュウパウロウ・骨付きカレーシチュー・カレーシチュー・ミンチ
■解体図ー内蔵編■
国産羊肉の内臓は市場にはほとんど出回りません。茶路めん羊牧場では屠畜翌日に回収した内臓を素早く下処理して、各部位ごとに仕分けして、単品で販売しています。 臓(モツ)は臭くて苦手という方も鮮度が良く丁寧に下処理されたモツを一度お試しいただけたらと思います。
1,舌(タン)ー1個が100~150g程度です。焼肉やモツ串がおすすめです。煮込みにするにはある程度の量が必要ですね。燻製にしても美味しく召し上がれます。豚や牛のタンほど表面のざらつきや固さはないので、湯剥きなどしないでそのまま使えます。
2,心臓(ハツ)ー1個150~200g程度です。心臓は筋もなく柔らかく適度な歯ごたえもあります。焼肉や煮込みにどうぞ。
3,肝臓(レバー)ー1個700~1000g程度です。厚切りにしてステーキにすればジューシーで臭みもなく美味しく召し上がれます。パテなどにも加工すると活用の幅も広がります。
4,腎臓(キドニー、ロニョン、通称まめ)ー匂いが強いと思われがちですが、鮮度が良ければ匂いは気にならず、強火で短時間ソテーするだけで独特の食感が楽しめます。
5,胃袋(トリッパ)ー1セット1000~1500g程度です。四つの胃袋があり、1胃=ミノ・2胃=ハチノス・3胃=センマイ・4胃ギアラ(アカセンマイ)と呼ばれ焼肉の材料になります。 軽く湯通しして内面をこそげ落とすと白くなります(胃袋処理済)。煮込むと柔らかく周りの味に馴染みます。ミノは生のまま内面の皮をはがした状態で焼肉にするとタコのような食感です。
6,頬肉ー2個で100~150g程度です。赤ワインの煮込みが代表的な料理ですが、量が必要です。そのまま焼いても美味しく召し上がれます。
7,脳味噌(ブレンズ)ー(回収困難です要特別予約)、鱈のたちのようなレアチーズのような食感です。表面を少し香ばしくソテーして頂くと絶品です。
8,胸腺(リー)ー(回収困難です要特別予約)希少部位です。脳みそと同じく表面を香ばしくソテーして召し上がってください。
9,肺ー1個1000~1500g程度です。肺はもっちりした独特の食感で炒め煮にすると周りの味に馴染み美味しく召し上がれます。
10,気管・食道ー肺と一体型、気管は軟骨です。食道は焼くとコリコリした食感が特徴です。
11,横隔膜(サガリ・ハラミ)ー1頭分1セットで150g~200g 程度です。サガリとハラミはともに横隔膜のことで赤身の筋肉です。薄くて小さい部位ですが焼肉にすると美味しくいただけます。
12,小腸ー牛でいうシマチョウで薄くて脂の付着も少ない部位です。煮込みや焼肉になります。塩もみしてボイルしてから調理に使います。
13,大腸ー牛でいうマルチョウで表面に脂肪が附着していてこの脂肪があっさりして美味しいという方も多い部位です。焼肉や煮込み料理にご使用ください。
羊の歴史~羊と人の生活の繋がりは?
羊はムフロンやアーガリー、ユリアルといった中央、西アジアの高原にいた野生獣が家畜化されたと考えられています。家畜化の歴史は古く8千年前ともいわれています。
勝手に想像してみましょう。ある日水辺にやってきた人間の子供とムフロンの子供が出会いました。好奇心が強く警戒心の薄い子供たち同士はすぐに仲良くなりました。なごりおしいが人間の子供が立ち去ろうとするとムフロンの子供がついてきました。
そしてふと見るとその母親を先頭に群れが従ってくるではないですか。
こんな偶然から牧羊の歴史が始まったのかもしれません。なついた羊を移動させることで群れが動く、群とは字のごとく羊そのものです。実は羊群にリーダーやボスは存在せず誰かが動くと皆動く。危険や異変に誰か気づけばともかく群れとなって行動する。それは捕食関係で食べられる側にある彼らが身を守る手段であり、その彼らが人間の側で暮らすことが狼や他の肉食獣から身を守ることになると思い、「人と羊の契約」が成立したのかもしれません。
人は羊を守り、育て、その生産物の恩恵を受けられます。羊の餌を求めて移動する遊牧は人と羊の移動であり、道ができ、やがて移動から定住へと進みゆくのです。羊は生きて移動するうちは腐らない衣食住の貯蔵庫であり、羊の頭数を多く持つことは豊かさにつながり、財産となりました。殺して終わる狩猟から財産を増やす牧畜へと代わり、衣食住の安定は文化を生み、再生産できる資源の活用でもありました。西洋の宗教にも羊は深く関わっており、イスラムもユダヤもキリストも羊は良きものであり、神への生贄とされ、聖書ではわれわれは迷える子羊として良き羊飼い(牧師)に導かれているのです。
歴史の影に羊有り、羊なくして歴史を語れず、ルネッサンスや大航海時代、産業革命にも羊が深く関わっていたのですが、薄い知識で語っても話は尽きないのでご興味おありの方は山根章弘著「羊毛文化物語」(講談社)を読まれることをお勧めすします。
ともかく羊と人間のこの1万年にわたる関わりの末、今や羊は世界のいたるところで3000品種10億頭が飼われており、われわれの生活文化と深く結びついているのです。
日本の羊
さて一方日本の羊はと言えば、明治以前には大陸からの献上物として海を越えてきたことが古書に記されていますが、湿潤な気候に合わなかったのか定着した歴史はありません。十二支としての文言では生活に溶け込んでいたにも関わらず、実態の無い生き物であり、架空の生き物である龍(辰)よりも親しみはなかったようです。
それが明治に入って西洋化の一貫として畜産が振興されるなかで導入され、主に関東以北で飼育されました。
最初は肉を食べるというよりも羊毛の生産が主目的であり、羊毛の生産は軍需産業すなわち軍服や毛布などの毛織物の供給との関わりが大きく、大きな戦争の度に、国による羊増殖計画が立てられ、平和になると減少するという歴史を繰り返しましたが、第二次大戦後それまで統制品目であった羊毛は物資不足の時代に、農村の衣服を担う貴重な資源として重宝され、北海道ではどこの農家も数頭の羊を飼い、手紡ぎをして防寒衣料をつくり、中にはホームスパンで服地を織るまでの技術を習得した人もいました。地域には羊毛を集めて綿打ちや紡績をする町工場もあり、羊毛は高値で取引されました。昭和30年代前半には羊の数は全国で100万頭にまで増えました。
しかし高度経済成長の始まりとともに繊維工業の促進策として羊毛は自由化され、ご丁寧に羊肉やその他羊の生産物全般にわたり完全自由化非課税品目となりました。すなわちこの時、羊は日本では必要の無いものと国に烙印を押されたのです。路頭に迷った羊達はどうなったかといえば、当時老廃羊を肉用にしようとして、農村で羊肉の食べ方を模索していた中で広まりつつあったジンギスカンとして、行事の度に庭先で潰されて胃袋に収まったり、ソーセージなどの混ぜ物としても結着性のある羊肉は重宝され貨車に満載されて加工場へと送られていったそうです。
結果10年あまりで食べつくされ昭和40年代前半で羊は100万頭から1万頭にまで減少し、北海道では輸入肉を原材料にしたジンギスカンを食べる習慣だけが残りました。その後昭和40年代後半から肉タイプの大型のサフォーク種が導入され、減反政策の農地転用に奨励されたり、北海道では一村一品運動の影響もあり、いくつかの市町村で羊の飼育が奨励されて、一時北海道内1万7千頭全国で3万頭にまで回復しましたが、バブルの崩壊後、また不要なものとされ、再び道内5千頭にまで落ち込みました。
このところの世界の羊肉市場の高値とジンギスカンブームの再来や赤身肉の人気もあり、羊肉の認知度は高まり、少し回復基調にはありますが、それでも道内1万頭全国で1万9千頭程であり、日本国内の羊肉自給率は0.6%程といわれています(平成30年)。
こうして考えると国産の羊は吹けば飛ぶような存在であり、逆にまぼろしの羊肉などと特別視されたりしますが、茶路めん羊牧場ではこの30年間、作り手と使い手が親密に繋がって、羊好きの料理人や羊料理の好きなご家庭へ羊を楽しんでいただけるように努めてきました。羊をとりまく厳しい諸事情を一つ一つ克服し、使い手には作り手の状況も理解して応援いただきながら日々の課題に取り組んでおります。
今、我々が羊を飼うことができるのはその時代時代で羊に携わって来られた先人の御蔭であり、何度も羊の存亡の危機を乗り切ってきた先輩羊飼いがおられたからです。私も先が見えてきましたが、残された時間で、次世代へ何を託せるかを考え、もう少し羊を巡る冒険を続けて行きたいと思っています。
羊の恵みでクリエートされる衣食住
衣
大昔衣服と言えば獲物として捕らえた野生獣の毛皮を纏っていました。多分羊も最初は食用として殺した毛皮を利用していたと思われますが、ある時羊毛が絡まって糸になることを発見し、紡いで毛糸にして、その糸を編む、織るという技へと発展させて布を作りました。また羊毛に圧力を加えると、絡まりが戻らないで折り目の無い布、フェルトになることを発見しました。肉は他の家畜からも得られますが、羊毛だけが持つ他の獣毛には無い、構造的、機能的特質があり、羊が衣を作る動物として大切にされました。近年合成繊維が発達し、天然繊維より、機能的で安価であり、羊毛、綿、麻、絹などの天然繊維にとってかわり、天然繊維の生産は減少の一途ですが、ここへきて地球環境保全の見地から再生可能で、脱石油原料、再利用できサステイナブルな天然資源が見直され始めています。何よりも天然繊維の風合い感触は生物である人間の肌にフィットするものです。
茶路めん表牧場では一貫して、羊の生産物を無駄なく有効利用することに取り組んできましたが、羊毛を意識した飼養管理、活用方法に適した仕分け処理、洗いのシステムを作り、紡績会社やアパレル業界と国産羊毛の活かし方について取り組んでいます。
食
肉については世界中、羊の飼育されている地域ではその地の素材と合わせて様々な料理や加工品として発展してきました。たとえば中国では漢方で身体を温める熱の効果があるとされる羊肉が好んで食べられれます。餃子やしゃぶしゃぶ(火鍋)も羊肉が使われるし、羊羹とは元来中国では文字どおり羊肉の羹(あつもの)で、羊の肉を入れたお吸い物を意味するものです。現在羊の頭数世界一はダントツで中国です。またイスラム圏では宗教上の理由もあり、豚は食べず、羊肉を一番好んで食べます。モンゴルでは羊の血の一滴まで無駄にせずに腸に詰めてソーセージにします。また羊乳はチーズや乳製品になります。
インドは世界第三位の羊の飼育国であり、やはり多民族、多宗教の事情もあり、カレーには羊肉は良く使われます。
アフリカ、地中海沿岸ヨーロッパ全域、ロシア、世界中の羊肉料理を数えあげたらきりがありません。
羊乳は牛乳に比べて栄養価も高く、フランスのロックフォールやイタリアのペコリーノなど有名な羊乳チーズがあります。
茶路めん羊牧場ではバラエティーに富んだ羊料理の素材を揃えられるようにパーツ毎の部分肉や骨付き肉のカット、各種内臓やミンチに到るまで、各種アイテムを揃えています。メニューに載っていないカットにも応じることができます。また羊料理を手軽に感じていただけるよう、簡単に家庭で、羊料理を楽しんで頂けれうように、じっくり丸ごと内臓も含めてすべての部位を順番に食することができるオーナ制度もあります。
またファームレストランクオーレでは羊肉と地元の野菜、チーズなどとアレンジして、本格的な羊料理を提供させていただいております。中でも羊の内臓や羊肉加工品、マトンなども取り入れたオール羊コースや季節限定のミルクラムコースなど羊好きの方にもご満足いただけるよう取り組んでいます。
御蔭様で長年の取り組みんの中でオリジナルな羊肉加工品もアイテムを増やし、自社製造しており、内臓類のご注文も増え、羊を丸ごと無駄なく食べ尽くす目標に近づきつつあります。
〈写真提供〉©Kei Masuzawa Special Thanks to ひつじの惑星
住
モンゴルの遊牧民の住居であるゲル(パオ)は木のフレームに羊毛から作った大きなフェルト布で壁や屋根を覆って作られており、釘1本使わずに組み立てられ、力学的にも合理的に考えられており、真冬の厳しい寒さの中でも内部はまきストーブ一つで快適に過ごすことができるのです。
モンゴルに限らず中央アジアやトルコにいたる遊牧民は羊のフェルトや毛皮を使った住居を持っています。我々の住環境においても毛織物や絨毯、ムートンの敷物、羊毛布団など羊毛が原料のインテリアが使われています。
娯楽
人間は衣食住が安定すると暇ができ、遊ぶという余裕ができました。音を奏でたり、ルールを作って体を動かしたり、それが音楽やスポーツへと発展したわけですが、そのツールは身近なものを使ったわけで、弦楽器の弦はガット(GUT=腸)といいますが、元来家畜の腸を撚って作ったもので、現在でも古楽器には使われています。以前うちの羊腸から弦作りをする方がおられました。
打楽器の皮は勿論動物の皮をなめして張られたわけです。アフリカンドラムを作られる方から羊の皮を頼まれたこともあります。打楽器といえばピアノのハンマーに張り付けられているのはフェルトです。このフェルトがなければピアノの音色はでません。南米音楽フォークロナーのケーナ奏者の方からいただいたのですが、山羊や羊の蹄を束ねて鈴のようにしたチャフキャスという楽器もあります。
一方スポーツにおいては羊飼いが放牧地で羊の見張りをしていたときに暇をもてあまして、先の柄が曲がった羊を追う杖を逆さにして石ころを打ってウサギの穴に入れて遊んだのがゴルフの始まりとされています。オールドファッションのゴルファーの格好といえばツイードのジャケットとニッカーボッカにハンチングをかぶり、まるで昔の英国の羊飼いの姿そのものです。さらにゴルフ場の芝を管理していたのは羊達だったのです。羊は牛と違って草を短く芝刈りするように食べるのです。農薬漬けのゴルフ場で健康を害することなく まさにオーガニックな時代にぴったりの羊のゴルフ場をどなたかやってみませんか?
テニスのラケットもガットといいますが、これも羊腸が使われていました。さらにテニスボールの表面はといえばウールのフェルトです。こうして考えてみると羊なくして今の音楽もスポーツも語れないということになりますかね?
蛇足ですが手術用の糸で体の内部を縫うのには組織に吸収されて溶けていく糸が使われますがこれも獣腸線といって昔は羊腸がよく使われていたとのことです。
また羊の体脂肪は食用だけではなく石鹸にもなります。石鹸の起源は神への生贄として焼かれた羊の脂がその灰と反応してできたといわれています。羊毛の脂はラノリンというワックス系の脂質であり、口紅の素材や医薬品の原料としても使われています。
さてどうでしょう普段なにげなく使っている生活雑貨や楽しんでいる音楽やスポーツの起源が羊であるというものが結構あるでしょう。勿論羊に限らず日本人のルーツともいえる稲作も食べるお米としての役目だけでなく衣食住を作ってきたのです。鯨も日本人は捨てることなく活用してきたのです。でも現代社会では経済性、効率性重視のもとある一つの目的のためにだけ生産を特化しているのです。私もそんな社会に飲み込まれている人間の一人ですし、物質文化を享受しており、遊牧民のように自給自足できる羊飼いではありません。でも羊を身近に感じることで時々羊に諭されているように感じます。その昔羊達が人間の下で暮らすことを良しとして結んだ契約を我々は反古にしてはいけないのです。彼らがこれからもこの地で草を食みながら羊の時刻を刻み続けられるようにしていくのが羊飼いの役割ではないかと思われます。