出会ったのは四十数年前

大学の研究室で実験動物として飼われていたコリデールという白いモコモコの羊がビー玉のような目で私を見ていた。
ある日先生から食べるぞと言われ、我々学生は初めて羊を自ら屠り(ほふり)、捌(さば)いて炭を起こして、丸焼きにした。香ばしい香りの肉片にかぶりつくと、肉汁が口の中に拡がり、噛む度に旨みが増幅され、無言で食べた。可愛そうという気持ちを無くした訳ではなく、ありがとうという思いが沸きあがってきたのを記憶している。
以来この感動を分かち合いたいという思いに変わりはない。

羊肉をテーブルミートへ

国産の生の羊肉は今まで食べていた冷凍のロール状のジンギスカンとは全く別のお肉ではないかと思った。なぜ?こんなにも美味しいのに、なぜ?日本には羊がこんなに少ないのだろう。明治以降の日本の羊のたどった道、戦後高度経済成長の陰で切り捨てられた不運、ジンギスカン=羊肉に特化された食べ方。
何か違う。こんなに美味しい羊が周知されていないのはもったいない。
普通に家庭で鶏、豚、牛と同じように羊が食卓にあがるようになればどんなにか豊な気持になれるだろう。
特別なメニューだけじゃない、カレーだって、ハンバーグだって、ギョウザもコロッケも、しゃぶしゃぶだって、羊肉で作ればそれだけで肉料理の拡がりが感じられるはずだと……。
茶路めん羊牧場では本来の羊肉の美味しさをあなたの家庭で楽しんでいただけるように、新鮮な羊肉をあなたの食卓へ直送しています。

羊1頭無駄なく丸ごと活用する。

人と羊の8千年に渉る付き合いの中で羊はその体のすべてをささげて衣食住を賄ってくれました。モンゴルの遊牧民は血の1適も無駄にしないで羊を苦しめることなく、屠殺し、内臓も頭もすべてを使い切ります。
羊飼いとして、これを商売として生業にしていく上ではなかなか自給自足というわけにはいかないのですが、出来るだけ捨てるものが無いように羊を丸ごと活用したいという思いは持ち続けてきました。お肉を売るのが一番の収入になっていますが、骨に出来るだけ肉が残らないように解体し、内臓も丁寧に下処理し調理がしやすいようにすれば喜んで使っていただけます。おかげさまで殆どの内臓が引き取られ、余りが犬の餌になります。
羊毛や毛皮、羊脂や骨まで出来る限り、使い易い商品にすることにも取り組み続けています(羊まるごと参照)。ただし、これらは一牧場ですべて行うのはとても大変で経済効率も決して良いとはいえません。ともすれば中途半端になってしまいます。まだ道半ばですが、それぞれの分野を得意とする人とのネットワークの中で商品開発や販路拡大が行われていくことで、羊一頭無駄なく丸ごと活用されていくことを願っています。
<写真提供>©Kei Masuzawa Special Thanks to ひつじの惑星

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土-草-羊の連携プレー

培う(つちかう)という言葉があります。長い時間をかけてゆっくり育てるといった意味です。羊達が草を食み、蹄で踏み、糞尿を落とし、土の中ではミミズや微生物の働きで、良い土壌が作られ、そこに草が育ちまた羊が食べる。そうした土-草-羊の連携で30年かけて培った牧草地は羊達からの最大のお贈り物です。それを更に育てる努力を怠らないで継続していくことが羊飼いの仕事です。
よく美味しい羊をつくる秘策はなんですか?と聞かれますが、何かを与えてそれだけで羊が美味しくなるならぜひ教えてほしいですが、土-草-羊の健全な連携が原点で有ることは確かだと思います。

羊が必要とされる世の中はくるのだろうか

羊は日本の経済の高度成長下で必要のないものになり半世紀経ちましたが、今、世の中は量より質を求め始め、使い捨てからリユースやリサイクルへと、そして地球に優しい、サステイナブル≪持続可能≫な方向へシフトしようとしています。私達が40年前に思いえがいた羊が求めれる社会が来る予感がします。儲からないよ、苦労するよと言っても羊飼いになりたい人たちが今も後を絶たないのは自然なことなのでしょうか?

この地で羊を飼い始めて30年が過ぎました。

長かったようですが、日本に馴染みのない、歴史の無い羊を定着させることは一筋縄ではいきません。1人の人間が関われるのはそのほんの一部にしか過ぎないのです。
今改めて振り返ると特にこの地が好きでここで羊を飼い始めた訳ではなかったのですが、ある時、ふと放牧地の向こうに拡がる風景をバックに草食む羊群を眺めて、純粋に美しいと思いました。羊群と風景との一体感を感じ、羊がここに自然にいるべきものとして風景に融け込んでいるように感じられたのです。
これからもこの羊群が存在し続けることを願って、羊が存在する意味をどのように伝え、継承していくかを考えることが残された時間でやるべき仕事かと感じるようになりました。この地で羊群が悠久の時を歩めることを願って止みません。

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